時を経て、価値の高い家をつくること

先週は三重県を二箇所巡るメンテナンスツアーがありました。
それを振り返ります。

1日めは四日市にて「輸入窓アンダーセンの網戸取り替え&サッシ(障子)入れ替え」

いつもこの家に来る度、その素晴らしいロケーションに感激するのですが、今回は特に紅葉の時期と重なり、家と樹木がまるで一枚の絵のように見えました!


今回、網戸を変えることになったお部屋は大人数が囲んで座れるアルコーブ的なダイニングと、広いホール。

造り付けのベンチや腰壁、窓枠などを形作るパイン材やツガ材が時を経て醸し出すアメ色と艶感。
それらが織りなす趣きのある印影に、しばしうっとりしてしまいます。

住み手が長年住みこなした家にメンテナンスで入らせて頂く時の、私にとってのひとつの楽しみです。

勿論見ているばかりでなく、しっかり手は動かして仕事はさせて頂いてますけどね(笑)・・・・

この空気感の中でお家の手入れをしていると何かとてもいい仕事をしている気分になります。きっとそれが自分の仕事のモチベーションに繋がってるんだと思います。

古い車や、使い込んだ革製品などでもそうですが、上質な物を手を入れて使い続ける事って良くないですか?

私は好きです。自己満足に近い部分もありますが、ビンテージってそういうところありますよね?!


【引用:VOL.0 対照語源学からみる諸言語におけるまど】
植田康成
2.諸言語における「まど」の語源
諸言語における「まど」は、そもそもどのような意味なのか。確認した限りでは、おもに3つに類型化できるようである。すなわち、「風の目」「 (採光、換気のための) あな」、「外を見る目 (あな) 」である。
先ず、英語の「まど」windowは、古代北欧語vindaugaに由来し、「風の目」を意味する。

窓越しに外の風景が綺麗に見えるのも、木製窓だからこそ。
窓=WINDOWの語源は「風の目」
外壁に空いた穴は採光や換気の為だけでなく、
外の風景を見るための建物の目とも言える。

和の建築なら、窓に額縁は無く、開放的で自然に同化する。人が自然の中に入っていくイメージ。

洋の建築なら、額縁を付けて、自然と屋内を一つの境界線で区切り、自然を一枚の絵のように見せる。
屋内から、自然を切り取り、眺めるイメージ。

「窓=一枚一枚がひとつの絵」と思える瞬間です。


回廊のようなカバードポーチが素敵です。


工事をしながら当時の仕事を見ていると興味が尽きません。

思うのは、当時しっかり考えてデザインし、自然素材を主に使い、ちゃんと作り込んだものは、いつまで経っても良い。
たぶん誰がここを見ても何かしら感動するとか落ち着く気分になると思います。

そして、いかに時間をかけて設計し、素材を吟味し、お客様も妥協なく家づくりに関わっただろうと言うことが、
何も言われなくても建物全体の空気から伝わってきます。



家を作る時は、つい個人の趣味とか表面上のデザインに気が取られがちです。
ご夫婦やご両親との間で、普段は気付かなかった趣向を元に意見が対立することもしばしばあります。

でも、本当に大切な事は時間が経ってからこそわかると思います。
個人の趣味を越えて、誰もが「いいなぁ、ここに暮らしたらどんな感じだろう?!」と想像したくなる部分がこの家にはあると思う。

無垢の木の温かみや設計による光の取り入れ方や、天井の高さ、様々な要素がありますが、何か1つがどうと言うより全体のハーモニーみたいなもの。

この空間にいるだけで何かしら豊かな気分になってくる。
例えばここでアコースティックの演奏会をやったらどんなふうに響くだろうとか、夕方にパーティーをやったら夕日が差し込んできれいだろうなぁとか。

様々なシーンを思い浮かべてしまいます。

そういうことを感じ取れる家が普遍的な資産価値の高い家なんだと思います。


「長く使ってからこそ良いと思えるものを」
というのは私が目指している家の姿ですが、このような何十年も住んだ家に来る機会をいただくと、本当にそれを実際の建物で実感することができます。

私はこのようなお仕事を通じ、何十年経っても”やっぱりこれはいいな!”と思ったことを今手掛けている家に盛り込むこともできます。
迷ったときに自信を持って良いものをお勧めすることができます。

考えてみれば、それはとても貴重な立場だと今更ながら思います。

そこそこ歳も取りましたが(笑)このような私にこそ伝えられて、実現できることがあるはず。

ひとつの心得としては「替えられない部分にこそ普遍的に良いと思える設計を盛り込むべき」ということ。

反して設備関係は、 移り変わりが激しく技術の進歩もあってより省エネの商品が出たり、古いものは部品がなくなったりして交換を余儀なくする場合が多いです。
だから、設備はある程度の期間を経て交換していくものだと割り切ったほうがいいかもしれません。


左が新しい障子。右が古いほうの障子。飾りの格子はアンダーセンの場合はしっかりした樹脂製なので、劣化している事はほとんどなくそのまま利用できます。

さて、感激してばっかりでなく、今回の仕事の事も少し具体的に書きます。

網戸交換の後は、ダブルハング=上げ下げ窓のガラスが割れている部分の交換をします。

輸入窓の場合は、ガラスのみを交換ではなく、障子ごと取り寄せて入れ替えということがほとんどです。
発注から3ヶ月から長い時は5ヶ月ぐらい待っていただくことになりますが、取り寄せた後は色を塗って現場に持ち込み数時間で終了します。

こちらのお家は築23年ほどになりますが、窓の品番や年式等の情報がわかれば、海外に発注し同じものを取り寄せることができます。
これを意外と知られてないことが多いので、再度書かせてもらいます。

メリットとして、躯体を触らずに交換ができますので現場での作業が少ないですし、外見も全く変わりません。
時々、「そのことを知らない工務店さんに相談したら、枠のみを残しカバー工法で日本のアルミサッシを入れましょう」と言う提案をされました、とお客様から聞きます。

この場合外見もかなり変わりますので、私はあまりお勧めしません。


障子を取り替えた後にシリコンスプレーをレールに吹きかけて、何度か障子を動かすとかなり動きが軽くなります。
外の窓に関しても重い場合はそのようにして軽くすることができます。

「価値の高い家とは何か?」

私は、流行り廃りに関係なく、時間をかけて醸し出された味わいのある家こそが価値の高い家だと思います。

その空間に身を置いた時に、和洋年齢性別を問わず、誰もが「いい」って感じられる。
どの時代にも流行はあり、家を建てる時にそれが盛り込まれるのも当然あり。

でも流行りが過ぎ去った後でも、それに関係無く人を豊かにさせる普遍的なものが残っている家。
これからもずっと愛おしい家であること。
そんなチャーミングな家がもっと増えていって欲しい。

私が今作っている家も、何十年後か訪れたときにチャーミングな家であるように。

本当の価値のある家を作っていこうと思う。

自分の納得のいく家を。

人が住んだ家を自分の目で見て感じ、ぐっと心にきた印象や、
憧れや夢を運ぶ家こそが間違いなく自分が作るべき家の姿。

そんな事を考えながらお家を後にしました。

これから、この日は、さらに西に車を走らせ、御浜七里ガ浜に向かいます。



白蟻被害からのフローリング貼り

白蟻や水濡れによる傷みの補修作業が終わり、フローリングを貼りました。
このフローリング、厚みが3/4inch(19㎜)ある無垢オークのフローリングで、昔はこれをスタンダードでどの家にも貼っていました。
この家もそうですが、このフローリング(Bruce)を貼ってある家に行くと、年数が醸し出すどっしりとした風格を感じます。久しぶりにこのフローリングを貼りました。


手前が古いフローリングで切り替えて新しいフローリングを貼ってますが、厚みや巾全て同じなので、リフォームし易いです。境目が分からないくらいです。


最後に巾木を付けるのですが、今回は壁が曲線になっているので、それに合わせて真っすぐの木製巾木を付けるのは、なかなか大変でした。何とか、この曲線なら普通のベイツガの巾木で曲がりました。
ただ、乾くまで跳ねてしまうので、仮止めを写真の様に行って、ボンドが乾くまで外さないで置きます。
翌日、私が外しに伺ったところ、跳ねずにちゃんと壁にくっついていました。
お~、一安心。
すかさず、私の手により、巾木の塗装を行いました。
今回は、在庫の塗料を事前に塗って一番現状に近い色を探しましたが、一番合っていたのが、キシラデコールのカスタニでしたので、それを持参して塗りました。


また、壁を補修したところは新たにクロスも貼らないといけません。
当時のクロスがもちろん廃盤ですので、一番近いものでこれを選びました。
明日、このクロスを貼って一応の完成となります。


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